Qの箱庭

ショートストーリー仕立ての毎日

「つづきから」

わたしには、あるひとつの特技がある。
特に多くの人が得するわけでもない、ほんのささいな特技がある。

 

 

小学校の時から付き合いのある友人がいて、
彼女は今地元で接客業をやってて
シフト制勤務で毎日忙しそうにしている。

 

お互いマメな性格でもないし
趣味がそこまで合うわけでもないので
あまり連絡を取り合わない。
彼女が札幌に来れば一緒に遊ぶ。
わたしが地元に帰れば一緒に遊ぶ。
たまにプレゼントを贈り合う。
そういう不思議な距離間の関係だ。


わたしは時々、彼女と連絡をとりたくなって電話をする。
メールより電話の方が早い、という関係でもある彼女は、
わたしが電話をすると必ず出る。
平日とか土日とか昼とか夜とか、かける時間帯も定まってないのにほぼ確実に出る。

 

どうやらわたしには、彼女の休日を当てて電話をかけるという特技がある。らしい。

 

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カラオケボックスに行く。
ここの閉店時間をわたしは知らないが、開店時間は知っている。
11時。その時間にわたしたちは店の前で待ち合わせをする。
合流して、入り口のドアが開いたら入店する。学生証を見せる。
2,3人しかいないのにご利用時間は6時間で、と言う。
1曲ずつとか2曲ずつとか、そんな軽いルールを決めたら
あとはひたすら歌っている。歌は尽きない。

 

それがずっと、わたしにとってのカラオケボックスだった。
娯楽の少ないその町において他に時間をつぶせる場所は少なく、たった一軒のカラオケボックスは昼過ぎには満員になってしまうからだ。

 

だから、週1で2時間だけヒトカラする生活なんて、
10年前のわたしには想像することもできなかった。


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「んで、どっか行きたいとこあんの?」
「んー。ない」
「だろうな」

「んー・・・そうだ、ひさしぶりに11時からカラオケ行くか」
「ああ、開店待ちな」
「そこから6時間」
「二人だけど余裕だな」
「懐かしい(笑) よーし、行くかー」


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わたしには、あるひとつの特技がある。

 

彼女の年に一度あるかないかの土曜日の休みが
ちょうどわたしの帰省するタイミングと重なる、という
わたしと彼女だけが得をするような、ほんのささいな特技がある。

 

 

・・・そんなわけで。
10年前のセーブデータの続きをプレイしに
明日、地元に帰省します。


今週のお題「10年」(ギリギリ間に合った)