Qの箱庭

ショートストーリー仕立ての毎日

病気がちのわたしが健やかに生きるための棺桶 ―「ビオレタ」読書感想文

こんにちはこんばんはきゅーいんがむです。


第4回ポプラ社小説新人賞受賞作でもある寺地はるなさんの「ビオレタ」を読んだので、個人的な感想+自分語りをしようと思います。
(書いていたら割と既読の方向けの文章になってしまったので、未読でネタバレが嫌だという方は読まないことを推奨します)

ビオレタ (一般書)

ビオレタ (一般書)

 

登場人物やあらすじ等はこちらの特設ページにあります↓

ビオレタ:寺地はるな|ポプラ社

 

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主人公の妙は27歳(作中で誕生日がきて28歳)。
わたしは彼女と同じくらいの年なので(ちょっとだけ年下だけど)、「ゆとり世代」と言われてきた背景等は何となくわかるし、同じ年くらいの普通の両親や結婚を意識している5歳年上の姉がいたりして、主人公の境遇は何となく共感できる部分が多い。

でも、わたしは彼女と違って何でもネガティブに捉えたり自分を卑下したりはしないので、最初のわたしの心情はどちらかといえば菫さん寄りで、心配性な妙のことを”「熱意は買うがうるさい」””「壊れても爆発するわけじゃないし」”と思っていた。


でも、読み進めていき、妙の視点で登場人物たちを見、聞き、観察していくうちに、気がつけばわたしは妙になっていた。
そうなのか、そうかもなあ、と千歳さんの話を聞いたり、
家族に振り回されたり、菫さんや周囲の人々の「空気」に嫉妬したり、さびしくなったり。

そうしているうちに、ああ、わたしと妙は「別人」なんかじゃないよなあ、と思う。


わたしもいろんな言葉を溜め込んでしまう。
言った方がいいのかも、って思っても、相手のためや、あるいは自分が傷つかないために言わないで放置して忘れてしまう。
でもそれはやっぱりあとで棘になる。痛みになる。


”「痛くないって思いこもうとしたって、やけどはやけどだよ」”

”「ちゃんと手当てをしないといつまでも痛いんだよ」”


という千歳さんの台詞は、わたしにも突き刺さる。

 




この本の帯には「圧倒的な健やかさ」という言葉がついている。
この本を読んで、この言葉にわたしはとても納得した。
「健やか」というのは、怪我をしないことではない。
「健やか」というのは、怪我をしても平気な振りをすることではない。
「健やか」というのは、怪我をしながら進んでいくことだと思った。
怪我をするかもしれなくても、言葉を飲み込まずに、恐れずにすすむ。もし怪我をしたら、手当てをする。


手当てというのは、一人ではむずかしい。
怪我した部分は見るだけでも痛いし、手を怪我したりなんかしたら自分で包帯を巻くことも出来ない。
だから、誰かの手が必要になる。
身近な人を頼れないような時もあって、それでも誰かの手が必要な時がある。「棺桶」が、必要な時がある。


わたしは以前ストレスでお腹を壊して歩けないほどつらくなったときに、周りの人を頼ることが出来なかった。逆に頼ることがその人の負担や迷惑になりそうだと思っていたし、冷静にわたしの状況を理解して手当てしてくれるひとはいないと思っていたから。(だから病院に駆け込んだ。今も通っている。)

「ビオレタ」という物語や登場人物は架空のものだし、あくまでわたしにとっては他人である。
でも他人だからこそ、この「ビオレタ」という物語そのものが、わたしにとっての「棺桶」になってくれたような気がする。



物語の最後の方に、フェリーで主人公が波に酔っているシーンがあるけれど、
一読者としては、それまでのシーンが荒波だったので、そこからはなんだか穏やかな波のようだった。余韻のような、穏やかで優しい波。心地よい読後感。よい物語でした。


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以下は純粋な本の感想ではなく余談なのですが、


元々作者の寺地はるなさんのファンだったのもあり、
文章の随所に寺地さんのテイストが見られて「ああ、寺地さんだなあ」と思えて楽しく、嬉しかったです。
寺地さんのブログを読んでいて「面白い言葉を集めるのが好きなひとなんだなあ」と思っていたのですが、
それが「音がかわいい言葉を挙げていく」という千歳さんの遊びになっていたり、
主人公が時々モギャンみたいな面白い擬音を発していたりとか。
あとブログの方で楽しい文体に混じって書かれている出産、育児、子供に対する姿勢、親としての姿勢などが
ブログとは違った形で、でもやっぱりどっちも素敵な形で描かれていて、やっぱり寺地さん好きだなあと改めて思いました。なんだか告白みたいで恥ずかしい。モギャン!



作品の評価は基本的に作者自身のことを抜きにして作品単体でなされるべきかな、と思っているので、あくまで余談です。
元々寺地さんのファンじゃなくてももちろん楽しめる素敵な物語です。おすすめ。

特に病気がちなひとは、ぜひ。