Qの箱庭

ショートストーリー仕立ての毎日

入院日記1日目:天国か地獄(あるいは、クリーム色)

11/5(火)

直前まで締切や仕事や準備に追われ、わたわたしながら辿り着いた白い建物は今日もクリーム色に明るかった。
まだできて数年の新しい病院だ。地域の医療の中核となるべく作られた病院なので、大きく新しく最新の設備が整っている、が、集まる患者に対してスタッフが圧倒的に足りていないせいでいつも混んでいる。

だからここは来ても疲れるばかりで、数年通院してるけど特に良い思い出はない。
今日に至っては来る前から疲れていたので、着いた瞬間、とりあえずもう帰りたいなと思った。

しかしキャリーケースに大きめのバッグを3つ(本当は2つで足りるはずだったけど、大きめのぬいぐるみを入れるのにもう1つ余分に必要になってしまった)も持ってきておいて、今さら帰るわけにもいかない。
窓口に行って「今日から入院の(名字)ですけど」と受付の人に声をかけ、事前に記入した申し込み用紙各種を渡す。

「少々お待ち下さい」

少々待つと、上階から病棟の人がやって来て病棟まで案内してくれた。声が高くてやけに優しくて、この忙しい病院の看護師さんっぽくないなと思った。(後から知ったけど、看護師さんじゃなくて事務の方だった。でも、どのみち1階の受付の人とは雰囲気が違った。
でも、その後生活してみても、やっぱり病棟の看護師さんと外来の看護師さんは忙しさに差があるからか、一人一人の患者さんとゆっくり向き合っていく必要性があるからか、雰囲気が全然違うと思った)

エレベーターで入院する病棟のある5階に向かった。
病院の2階より上には行ったことがない。どんな雰囲気の場所なんだろうと思いながら到着を待っていたので、エレベーターのドアが開いた瞬間の印象ははっきり覚えている。

1階よりも更に明るく、広く、日差しが差し込む空間。
そこはあまりにも白くて、白すぎて、白々しいな、と思った。

③興ざめな感じである。 ―白々しい(しらじらしい)の意味や読み方 Weblio辞書

明るく照らされたその場所は病気で入院する場所とは思えなくて、どこかで描かれる天国のようなものにも思えた。
でも、そんな明るさが苦しんでいる人々がたくさんいる病院という場所にあることで、地獄のようにも見えた。白くて明るい地獄。特に、中々治らなくて長期入院していたら人によってはこの明るさは希望よりも地獄に見えるんじゃないかと思った。

でも、たぶん私が疲れていたのとこの病院に対するネガティブイメージが強かったからで、実際は明るくて綺麗で良い病棟なんだと思う。このときの私にはそう見えただけで。
実際、過ごしてみると明るくて気持ちが明るくなる場所だとは思った。長く不健康な状態で過ごしていたらどう変わったかわからないけど。


私はまともな入院経験は今の病気が発覚した小学生の頃しかないので(3年くらい前にも数日入院したけどよく覚えてない)、最新の病棟すごいなと思うところがいっぱいあった。
たとえば、各病室の隣に個室トイレがついていることとか、病室内に洗面所があることとか。
私の入院していた頃、入院していた病院にはなかったなあと思う。

病室は4人部屋で、私の他に1人しかいなかった。
そこで案内してくれた人から部屋や入院生活について色々説明を受けた。
提出した問診票についてあれこれ追加で質問を受けたけど、それって必要?と思う個人情報まで細かく聞かれてイライラした。自分の家族構成はまあ良いとして、兄のお嫁さんの名前とかって必要…?後から考えると輸血とかを考えてのことかなと思ったけど、それにしてもそういうのって入院時に全部提供する必要ないのでは。今仕事してない人は前職とか聞くらしいし…必要…?しかもそれ全部個室ではない病室で、隣の人にも聞こえる音量で口頭でヒアリングして大丈夫…?個人情報だだ漏れなんだけど田舎だから許されてるの…?

ヒアリングタイムが終わり案内してくれた人が去ってからは、病衣に着替えたり荷物を片付けたりした。母がいちいち「これはここがいいんじゃない?」って口出してきて、イライラが募って「うるさい母ちゃんだなもう」って言ったら拗ねたので、慌てて「ウソだよごめん」って言った。人に当たるのよくない。

担当になった看護師のお姉さんは、最初に案内してくれた人と違って若干気が強そうで、外来っぽい看護師さんだなと思った。サバサバした性格っぽくて最初の人より好きだなと思った。
そんなお姉さんの挨拶を聞いた後、昼食。
いきなりカレー出てきてびっくりした。病院食ってもっと味が薄い煮物とか出てくるイメージあったんだけど、こんなカロリー高いもの出てくるの…?
量は少なかったけど、味もそこまで薄くなかったし(私の味覚が薄味寄りなので、もしかしたら普通の人には薄いかも)、オレンジがついていたのも良い。果物好き。
ちゃんと病室に個別で運んでくれるし回収もしてくれるの優しい。
食後は持参してきた箸とスプーンを洗いながら(これは各自で持参するように書いてあったので持ってきた)、洗剤が欲しいなと思った。洗剤は入院案内の必要なものリストには載ってなかったなあ。

食後、眠くて目痛だったけどすぐ寝るわけにもいかなかったので(食後すぐ寝るともれなくお腹壊す)デイルーム(談話室。自由に電話とかできる広間みたいなところ)に繰り出した。
持ってきたBluetoothキーボードを開いて、叩く。頭回ってなかったけど文章打ち込むのは楽しくて、なんかこうどこでも文章打ってしまうのライターっぽいなと思った。書いていたのは記事じゃなくて日記だけど。

途中、主治医の先生がやって来たので少し話した。
午前中は外来を診ているけど、午後は病棟に顔を出して看護師さんと話したり患者さんの様子を見に来たりしているみたい。
いつも診察5分で、当たり障りのないことしか言わないから好きじゃなかったけど、患者数が多くて決められた時間だから当たり障りないことしか言えないだけで、本当はもっとしっかり患者と向き合いたいのかもしれないなと思った。

その後、部屋で1時間くらいうたた寝をして、14時半に検査。心電図とレントゲン。
心電図は検査技師のお姉さんの指示が早すぎてついていけず、え、どうすればいいの?と思っているうちにあっさり足首、手首、胸にひんやりした挟むやつ(名前わからない)を当てられた。プロめっちゃ手際がよい。プロってすごい。
レントゲンは呼ばれるまでも早かったし、呼ばれた後も素早く写真を1回撮ってあっさり終わった。プロ手際よすぎる。プロはやい。

夕食は18時だったんだけど、その15分前くらいに先生たちが挨拶に来た。毎日様子を見に来るらしい。
自己注射の時間帯と単位数を調整することになった。先生が複数人で話し合いながら治療方針などを考えていて、こうして話し合いながら進めていく環境はいいなと思った。

夕食のメニューは病院食らしく鮭の切り身と煮物とオクラの酢の物だった。
私の中でオクラといえば納豆卵かけご飯なので(一時期なか卯の朝定食にハマってた)、他の食べ方に少し違和感があったけど、これはこれで良いような気がする。
好んで食べないけど案外悪くないかもしれない。オクラ。

夕食後はすぐさま歯磨きをして、それから1日の活動スケジュールを立てた。
運動するように言われたし、お風呂にも入りたいので、自由時間を自分で把握してどれも自分で計画を立ててやっていく。
入院費が痛いのでこういうところは真剣にやっていきたい。真剣に健康になって、入院費の元を取る、というのがここでの私の目標だ。
というわけで大体やること決めたら運動に繰り出す。デイルームに誰もいなかったので、これ幸いとばかりにヘッドホンで音楽を聴きながらDDRステップごっこして遊んだ。想像上のDDR
20分くらいやったけど、これ20分やるのは地味につらい。主に人目的な意味で。

あとは母に連絡したり入院ツイートしたりして、病室に帰還。
目薬さしつつうたた寝してたら消灯時刻より10分早く消灯した。20時50分。
1回起きてお茶を冷蔵庫に戻したりしたけど(せっかく有料のカード使って冷蔵庫のスイッチつけたのに、冷蔵庫のドア開いてるしお茶外に出しっぱなしだったし、元を取るどころじゃない無駄遣いをした)、あとは割と熟睡だったらしい。普通に寝てた。朝5時30分過ぎまで。

 

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↑入院が嫌すぎたので小物を可愛いものにしてテンションを上げようとした結果こうなった。